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2024.03.15

デジタルアイデンティティの再取得|年齢や性別も超えられるメタバースの本質とは

2021年、NFTやDAOなどと共に「バズワード」として知られるようになったメタバース。「メタバース=3次元のバーチャル空間」という認識をお持ちの方も、今では決して少なくないでしょう。

一方で、2024年2月現在においても、仕事・プライベートを問わず「日常的にメタバースを利用している」という人はかなり少数派なのではないでしょうか。メタバースの普及が進まない要因の1つに、ユーザー側がメタバースの本質や必要性を理解できていないということが考えられます。

この記事では、メタバースを作る人、メタバースを使う人の双方が理解しておくべきメタバースの本質について、「デジタルアイデンティティの再取得」という観点に着目して考察・解説します。

人々がメタバースに懐疑的な理由

2024年2月時点において、メタバースの普及が進まない原因の1つに、「メタバースの本質的な役割や必要性を人々が理解できていない」というものが挙げられます。そしてこのことが、メタバースに対する懐疑的な見方、つまり「メタバースって本当に普及するの?」という疑いの目線につながっています。この「懐疑的な目線」について、いくつか具体例を挙げてみましょう。例えば、「これから人々はメタバースの中で買い物をするようになる」という主張に対して、以下のように考える方もいるのではないでしょうか。

●ネットで買い物をするならAmazonで十分

バーチャル空間で商品のサンプルを見ても参考にならない

実物を見る必要があれば実店舗に行くし、その必要がなければ既存のネットショッピングで済ませるので、メタバースの存在意義がわからない

あるいは、「会議もメタバースで行うようになる」という主張には、以下のような反論が聞こえてきそうです。

Zoomなどのサービスを使えば、今でも不自由なくオンライン会議は行える

顔を出したくなければ既存のオンライン会議でも可能、わざわざアバターを用いて自分を隠す必要性を感じない

つまり、多くの人は「メタバースで買い物や会議は確かにできるけど、わざわざそれを使う必要性はないのではないか?」と思っているようです。このような意見は、現時点におけるメタバースの機能・性能を考慮すると、間違っているとは言えません。しかし「仮想空間でコミュニケーションが取れる」といった機能の一部分だけを見ていると、メタバースのメリットを見失いがちです。実は、「デジタルアイデンティティの再取得」を通して、従来のコミュニケーションにおける問題点「無意識のバイアス(先入観)」を克服できるという利点があります。まず私たちはどんなバイアスを抱えているのか例をあげましょう。

年齢

特に日本人は人間関係において「年上を敬う」という価値観を持ち合わせている方が多いかと思います。年上に媚びへつらったり、年下に高圧的な態度を取るといった露骨な対応の差が見られることはあまりないかもしれませんが、一方で「年上には丁寧な言葉を使う」「年下には砕けた言葉を使う」といった程度のことは、誰しも経験があるはずです。

実年齢が自分よりも上か下かは関係なく、まず私たちは「見た目の年齢」で無意識に相手と自分の望ましい距離感を判断しています。これは、円滑なコミュニケーションのためにプラスとなる側面もあります。しかし、過度に年齢を意識したコミュニケーションは、自分と相手の距離感を固定化してしまう恐れがあります。

性別

昨今では、性差による不平等が生じないように様々な社会的取組みが行われています。しかし、「うちの会社はいまだに古い価値観で、明らかに女性が不利な状況」という声もあるでしょう。より身近な例として、以下のようなZoom会議の場を想像してみてください。

●参加者10人のうち9人が男性、1人が女性

●全員顔出しで、ゆえに人数比が「9:1」であることを全員が把握できる

このような会議に参加した場合、多くの人は無意識に「この会議、男ばっかりだな」という印象を持つのではないでしょうか。その結果、9人の男性は「女性に配慮しなくてはいけない」と思い、唯一の女性は「この会議においてはマイノリティである自分は、どう振る舞うべきか」ということを考えるはずです。

これでもイメージがわかない場合は、上記の例における性別を逆にしてみてください。会社では自分が「性的マイノリティ」に立つことが少ない男性でも、女性9人に囲まれた会議では普段とまったく異なる心持ちになることは容易に想像できるはずです。つまり、私たちは普段のコミュニケーションにおいて、「性別の違い」を原因とする強烈なバイアスを受けていると言えます。

身体的特徴

これは、以下のような細かい要素に分類されます。

●体の大きさ(身長・体重など)

●肌や髪の色

●障害の有無

例えば、金髪で肌の色が白く、明らかに外国人に見える人を見かけた際、「流暢な日本語を話す人」という風には基本的に考えないはずです。日本語は英語やスペイン語のように世界中で話されているわけでもなく、中国語のように話者の数が多いわけでもないため、基本的に「外国人=日本語はできない」というバイアスが私たち日本人の中には存在しています。また、体の大きさや障害の有無なども見た目ではっきりとわかる特徴であるため、身体的特徴は私たちが相手に抱く印象に強い影響を与えかねません。

デジタルアイデンティティの再取得

このように、現実世界の私たちのコミュニケーションにおいては、年齢・性別・身体的特徴といった「後から容易に変えられない要因」によって、無意識のバイアスがかかっています。これらの多くは、円滑なコミュニケーションのためにプラスに働くこともある一方で、相手との関係性を無意識のうちに固定化してしまったり、場合によっては相手を傷つけるコミュニケーションにもつながってしまいかねません。

では、このような「コミュニケーション上の無意識のバイアス」を克服するためにはどうすればよいのでしょうか。ここで、注目されているのがメタバースです。自身の分身としてアバターを用いることは、自身の生身の体とまったく異なる新しいアイデンティティを「再取得」する事とも言えます。

例えば、50代の大柄な日本人男性が、メタバースの中では背の低い白人の少女のアバターを身にまとっていたとします。この男性が少女のアバターを用いることで、先ほど述べたバイアスは以下のように取り払われることになります。

●年齢:実年齢よりも明らかに若い見た目になれる

●性別:本来の性別とは異なる性別になれる。声の違いはボイスチェンジャー、言語の違いは自動翻訳など、他の技術が発展することでそれらの差異も埋められるようになる

●身体的特徴:本来の大柄な体格ではなく、背の低い白人の女の子になれる

そして最も重要なことは、アバターの外見からは「中の人が50代の大柄な日本人男性であることはわからない」という点です。年齢、性別、身体的特徴など、現実世界における私たちのアイデンティティは、メタバース内では私たちのアイデンティティとして機能しません。50代の大柄な男性という本来のアイデンティティを一旦捨てて、実世界では取得しえないアイデンティティを自分のものとして取得し直す。これが、メタバースの本質的な価値だと言えます。アイデンティティを再取得した私たちには、現実世界で影響を受けていた無意識のバイアスは存在しません。

たしかに、メタバースでのコミュニケーションに慣れるまでは「目の前のアバターの中の人はどんな人物なんだろう」というように、現実世界のアイデンティティを気にしてしまうこともあるでしょう。しかし、メタバースの利用に慣れてくると、何のバイアスもない対等な状態でコミュニケーションを取ることができます。

各メタバースプロジェクトの意義や利用目的が今ひとつ理解できないという方は、「そのメタバースは、現実世界における私たちのバイアスを取り払ってくれるか」という視点を持って、プロジェクトの内容を理解するように心がけてみてください。