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2024.04.12

【直撃】本気の丸紅。メタバースでファッション事業を展開へ

メタバースのビジネス活用で、既存ビジネスにいかにインパクトを与えるか。各社の模索が進む中、大手総合商社の丸紅が新たな取り組みを開始した。

ターゲットは「ファッション」だ。若い女性を中心にショーや買い物、試着などが楽しめる「WEAR GO LAND(ウェアゴーランド)」を構築し、2024年4月6日から21日まで期間限定で公開。年末から来春にかけて次の展開を目指す。少子高齢化、余剰在庫など様々な問題を抱えるアパレル業界で、メタバース活用で活路をいかに見出すのか。
その勝算をどこに見出しているのか。今回、MetaStep(メタステップ)編集部は、現在進行形のプロジェクトの全貌に迫るため、関係者を直撃した。(文=MetaStep編集部)

人気モデルと参加者が一体感! アバターのランウェイも新鮮な体験

「参加してるみんな、手を振ってみて~!」「うわー、反応してくれてる!みんなとつながってる!すごい!」興奮気味に話すのは、2024年5月号でViViモデルを卒業する藤井サチさんと、現役ViViモデルの嵐莉菜さん。20代女性を中心に人気の高いモデルのお二人だ。

これは、メタバース空間「WEAR GO LAND」のローンチを記念して、2024年4月6日に行われた女性ファッションメディア「ViVi」とのコラボイベント「ViVi collaboration DAY」の一幕だ。参加者はスマホやPCブラウザからアバターを通じてワールドに入り、人気モデルのお二人によるトークや交流を楽しんだ。MetaStep(メタステップ)編集部も、ライブでイベントに参加した。

※編集部が参加した模様はMetaStep(メタステップ)公式noteで公開中。併せてご覧ください。

イベントでは、まず人気モデルのお二人が、自分のこだわりや今年の流行などをトークしながら、リアルの洋服をコーディネートしていく様子が流された。ワールド内のモニター前には参加者が集まってくるので、まるで一緒に映像を見ている感覚になる。

今回、幅広い年代層に人気を誇るファッションブランド「X-girl」「9090」「louren」の3ブランドが出店。お二人はそれらブランドの洋服をリアル世界でコーディネートし、そのコーディネートが「WEAR GO LAND」内のアバターの洋服として3DCGで再現された。

そして、リアルのお二人が着こなすイメージ映像とともに、同じ服を身にまとったアバターがメリーゴーランド型のランウェイを歩く。人気ブランドの洋服を着たアバターがランウェイを歩いていくのは新鮮な体験だ。実際参加した編集部員も「あ、さっき嵐さんが選んでいた洋服だ!」など、没入感をもって見ることができるように感じた。

なぜ総合商社が「アパレル×メタバース」に打って出たのか

「WEAR GO LAND」は、ブランドエリア、ランウェイエリア、コーディネートワールド、フォトブースエリアなどで構成されるファッションに特化したメタバース空間だ。利用者はアバターを通じて、各ブランド店舗でのショッピングや、スタイリストによるコーディネート相談など、新たなファッション体験を行うことができる。

仕掛けるのは大手総合商社の丸紅。そもそも総合商社がなぜ、アパレル事業をメタバース空間で手掛けるのか。「WEAR GO LAND」の仕掛人の一人、丸紅株式会社 ライフスタイル戦略企画室 企画・事業課 今村 星斗氏は、その狙いをこう語る。

「もともと我々のチームは、ライフスタイル本部のDXを推進するチームとして2021年に発足しました。デジタライゼーションが決して進んでいると言えないファッション業界において、既存ビジネス、新規領域それぞれでDXに取り組む役割で、まずは既存ビジネスにおいて、統一されていないデータや、古い慣習などの課題に対するデジタル化に着手していきました。既存ビジネスにおける取組の方向性がある程度定まったことから、2022年の春頃から新規領域に取り組み始めました」。

今回お話を伺った丸紅株式会社 ライフスタイル戦略企画室 企画・事業課 今村 星斗氏(写真左)同課、東本 俊氏(写真右)

メタバースを活用した「WEAR GO LAND」の構想が初めからあったわけではなかったという。「新規領域でのDX」という視点で丸紅のチーム内で様々な議論がなされていったという。

「最初は、ファッション業界で活用が進んでいた3Dモデリング技術を中心に検討をスタートしました。当時、アパレル特化の3Dモデリングソフト「CLO」などで作成されたデータを見て、『デジタルデータで洋服がここまで表現できるんだ。モノづくり以外の分野での活用可能性があるかもしれない』と感じていました。コロナ禍のクラウドファンディングを活用した応援消費(在庫を持たず受注生産する)という消費動向の変化や、ブロックチェーン、NFTなど新しい技術の活用など、様々な視点で検証していきました。

こうした議論を重ねた結果、技術進歩や環境整備が進むという前提で、将来的に「メタバース生活圏」が誕生すると想定しました。メタバースが消費者に浸透していくことで、ライフスタイル分野では「新たな消費者-ブランド間のタッチポイントの創出」や「カスタマージャーニーの変化」「アバターファッションマーケットの拡大」などが進むのではないかと考えています」(今村氏)

YouTubeで公開中の「WEAR GO LAND」の紹介動画。「ファッションに出会いにいこう。」がコンセプトだ

一方で、丸紅株式会社 ライフスタイル戦略企画室 企画・事業課 東本 俊氏は、「私は途中からプロジェクトに参画しましたが、それまではインドネシアでアパレルの生産現場に携わっていました。アパレル業界におけるデジタル活用、メタバース活用はまだ入り口に立ったところに過ぎません。消費者との新たなタッチポイントへの期待感やメタバース分野へ関心を持つアパレル企業も一部存在しますが、まだメタバース分野そのものが黎明期で、ファッション分野において確立されたサービスが存在しないですし、まだ取り組みを始めていない企業がほとんどです」と本音を語る。

実際、丸紅の社内でも、一歩一歩課題を解決していきながら、プロジェクトを進めていったという。

「もともと私自身、プライベートでほとんどメタバースに触れてきたことがありませんでした。業界の方や実際に利用している周りの人に話を聞いたり、自分自身で様々なサービスに触れることで理解を深めることから始めました。また、ZEPETO(ゼペット)やフォートナイトの事例や、BEAMSなどの取り組みも参考にしながら、少しずつ戦略の輪郭を固めていきました。

様々な選択肢がありましたが、最終的には自社でプラットフォームを持つという結論でした。判断に至ったのは、丸紅には多くのアパレル企業と付き合いがある強みを持っていることと、リアルとシームレスに繋がる『メタバース生活圏』の誕生への期待感でした。

今回我々がターゲットとしている若い世代は、主にSNS・雑誌でトレンド情報を収集し、店舗・ECにて購入という購買体験を辿っています。今回、ターゲット層に丁寧にヒアリングを重ねました。すると、タイムパフォーマンス意識が高い若い世代は既存チャネルに課題感を感じていることが分かりました。これらの問題を解決する新たなチャネルの一つの可能性がメタバースである、と判断しました」(今村氏)

メタバースが持つ「仮想空間上での3D表現」、「アバターを通じたユーザー体験」、「地理を問わないアクセス性」などの要素を活用することで、消費者がファッションのカスタマージャーニーにおいて抱えている課題を解決できる可能性があると考えています。

開発段階で「ユーザーの声」をとにかく徹底的に聞く

「WEAR GO LAND」の開発を手掛けたのは、ギネス世界記録™を取得した世界最大のVRイベントを主催するHIKKYだ。Webメタバース開発エンジン「Vket Cloud」を採用し、スマートフォンなどあらゆるデバイスから気軽に入れるメタバース空間を構築した。

今回、HIKKYをパートナーに選んだ理由を今村氏は「こだわったのは、『スマートフォンでブラウザからアクセスできること』でした。10代から20代のメタバースに触れたことがない方が多いであろう層をターゲットと想定したときに、スマートフォンでブラウザから手軽にアクセスできることを実現したかった。Vket Cloudは要件も満たし、クオリティも高かった」と語る。

「WEAR GO LAND」では3ブランドの店舗がありショッピングを楽しむことができる他、予約をすれば、スタイリストへコーディネート相談をすることが可能だ

ここでMetaStep(メタステップ)取材陣は、多くの読者が疑問を持つだろう点を(勇気を出して)突っ込んで聞いてみた。「これってメタバースである必要はどうお考えですか? ECサイトやほかの選択肢の方が効率的という判断にはならなかったのですか?」

この質問に、まず答えてくれたのが、VR法人HIKKY でPRディレクターを務める松澤 亜希美氏だ。「この質問は、メタバースにトライする多くの企業で必ず挙がる意見だと思います。多くのプロジェクトを経験している私の立場から是非お伝えしたいのが、他のデジタル施策同様、それぞれ長所・短所があり、うまく使い分けてほしいということです。

例えば洋服を選ぶ際、すでに欲しいブランドや商品が決まっている場合は、消費者にとって良い手段はECサイトだと思います。欲しい商品のスペックや写真を見るのが目的ですから。一方、メタバースでは、自宅に居ながら買い物ができる利便性もありながら、百貨店にいるようなセレンディピティが生まれることが特徴です。百貨店を目的なく歩いていて、偶然気になるブランドや商品と出会う、これも買い物の楽しみの一つです。『WEAR GO LAND』のランウェイのように、3DCGの世界だからこそ表現できる世界観もメタバースならではです。せっかくメタバースを活用するなら、リアルと同じ物を再現してももったいないですし、エンタテイメント性の可能性は無限大です」

VR法人HIKKY でPRディレクターを務める松澤 亜希美氏

松澤氏の発言に、丸紅の今村氏も熱を込めて同調した。
「本当にそうなんですよ! メリーゴーランド型の『WEAR GO LAND』のランウェイは、リアル世界では見られない設計です。でもメタバースだから実現できましたし、遊び心もある。このランウェイ体験は『インスタグラムを見るように、可愛い衣装を着たモデルさんが常にランウェイを歩いているのを眺めながら情報収集できたら便利』というユーザーの声などから実現したものなんですよ。『ブランドを超えて自宅で簡単に試着ができることもメタバースだからできて嬉しい』という若者の声もありました」

確かに、有名ブランドのAとBを同時にコーディネートしながら試着することは、リアルの世界では難しい。まさにリアルを超えた経験であり、メタバース×アパレルの一つの可能性を示したと言えるだろう。

順調に進んだと思われるプロジェクトも、実際は計画の見直しや、機能追加なども行われ、当初より時間がかかった部分もあったという。

「多くのターゲットユーザーやアパレル企業の方に、資料やプロトタイプを用いてヒアリングをしたのですが、その時にあるアパレル企業の方に言われたんです。『ユーザーが利用したくなるような機能/サービスをもっと考えた方がいいのでは?』と。この言葉にハッとさせられ、新しい買い物体験を提供できると考えたコーディネート相談サービスや、商品選びの参考になるレベルにまで衣料品の3Dデータのクオリティを上げることなど、見直しを図りました。まだ期間限定ではありますが、満足いただける水準になっているのではないかと考えています」(今村氏)

次世代デジタルファッションモールを目指して

今回「WEAR GO LAND」は、期間限定(2024年4月6日から21日)で開催している。その狙いとして、まずは初期的なサービス受容性確認やノウハウの獲得・蓄積し、中長期的に業界をリードするポジションの確立を見据えるためだという。

自分のアバターが人気モデルと2ショットでポージングができる(キャプチャは実際にMetaStep編集部が参加して撮影)。これもメタバースならではの楽しみ方だ

「アパレル×メタバースの挑戦はまだ始まったばかりです。まずは、今回の取り組み結果を定量・定性それぞれの観点から分析し、今後につなげていきたいと思います。今回4月に開催した理由は、春物が売れ始めるタイミングにどのような動きがあるかを見極めたかったから。今後、違うシーズンでも期間限定で開催する予定です。

WEAR GO LANDでの体験がブランドエンゲージメントに与える影響や、消費者へのアプローチ方法に課題を抱えているブランド、および試着など洋服を購入する際に課題感を感じている消費者の双方の課題解決となり得るかを検証していきます」(今村氏)

現状の課題に感じている点の一つは「ロード時間」だという。

「メタバースを開発すると、『これもあれもやりたい』と機能を追加していきたくなりますが、当然容量が増えると重くなり起動時間にも影響します。もっと高画質で洋服を見せるのか、デフォルメでも良いので違う情報を付与するのか、などまだ最適解がないのが事実です。まだまだ追加したい機能もたくさんあります。ユーザビリティも考えながら、最適解を見つけていきたいと思います」(今村氏)

「Vket Cloudでここまでアバターを作り込んだケースは初めてでしたし、良い意味で共創できたと振り返っています。ロード時間の課題は、メタバースを作る上で重要な観点です。その際には、何を優先させ、どのように開発していくかというプロセスが重要。多数のプロジェクトの経験がある当社だからこそご支援できる部分もあると思いますので、今後もご一緒に『アパレル×メタバース』の未来を作っていけたら嬉しいです。もちろん、Vket Cloudの開発も強化していきます」(松澤氏)

最後に今後の展望を今村氏は熱く語ってくれた。
「今回の期間限定公開での取り組みを通じて得られたメタバース・XR・その他周辺領域における知見をもとに、丸紅ではさらなる挑戦を続けていきます。今回は意欲ある3ブランド様に参画頂きましたが、参加頂けるブランド数ももっと増やしていきたいですし、業界をあげて次世代のデジタルファッションモールを実現していきたいですね」

記事公開現在、「WEAR GO LAND(ウェアゴーランド)」は公開中だ。興味ある読者の皆さんは、是非期間中に体感してみよう。次世代デジタルファッションモールの行方はいかに。MetaStep(メタステップ)編集部は今後の取り組みにも注目していく。

関連リンク 

WEAR GO LAND(ウェアゴーランド)

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