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2024.04.24

加藤CEOが初めて語る! クラスターの海外戦略~「日本型メタバース」は世界で勝てる

累計動員数3,500万以上を誇り、アメリカ、ヨーロッパ、アジアなど海外からのユーザーも多いメタバースプラットフォーム「cluster(クラスター)」。「バーチャル渋谷」「バーチャルあべのハルカス」など、年間260件近い国内外のメタバース案件を手掛けている。日本を代表するメタバースプラットフォームが次に見据えるのは、世界進出だ。今回MetaStep編集部は、同社代表取締役CEOの加藤直人氏に独占取材。メディア取材としては初めてクラスターの海外戦略を語って頂きました。

「clusterに限らず、『日本型メタバース』は、間違いなく世界展開の武器になる」と意気込む加藤社長。スペインをはじめ、世界各地で商談が進む同社が考える、メタバース分野での日本企業の勝ち筋とは!?(文=MetaStep編集部)

(編注:ローマ字表記“cluster”はクラスター社が提供するメタバースプラットフォームのことを指す。以下同様)

海外で『日本型メタバース』がなぜ評価されるのか

――これまでクラスターは、日本を中心に事業を展開してきましたが、今後はグローバル展開を強化されるそうですね。

加藤氏 はい。国内プロジェクトを数多く手掛けてきた中で培った知見が、いよいよ海外で花開こうとしています。マーケティング支援、イベント企画・運営のノウハウ、運用フロー、ユーザビリティを担保するシステムなど、clusterはあらゆる面でお客様にご満足いただけるレベルにかなり近づいています。こうした状況がグローバル展開を推し進める要因となりましたが、それ以上に、海外における「日本型メタバース」の可能性を感じたことが大きいです。

「日本型メタバース」は、いわば日本の文化や環境から生まれたメタバースの形や文化そのものです。例えば、「バーチャル渋谷」のようなイベントや、展示会やビジネスセミナーなどでのメタバース活用、などです。

©KDDI・au 5G / 渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト

©KDDI・au 5G / バーチャル渋谷ハロウィーン実行委員会

「バーチャル渋谷」(上)を舞台に開催した「バーチャルハロウィーン2023」(下)。KDDIが運営するメタバース「αU metaverse」との共同開催で、各会場にて異なるコンテンツを展開。

2023年12月15日には「G7知財庁長官級会談」がメタバース上で開催された。日本国特許庁(JPO)と協力し、ワールド構築・運営をクラスターが担当した。

これらの事例は日本にいると、ある意味当たり前のように感じるメタバース活用ですよね。ただ、実は海外では、ひとつの街や観光地を構築したり、メタバース上でイベントを実施し、PRやマーケティングに活用したりするメタバース活用は少なく、海外から見ると珍しい事例です。実際、海外で商談をすると「こんな使い方があるのか!」と驚かれるケースも多く、現在進行形で商談も進んでいます。こうした動きを今後加速していきたいと考えています。

日本では馴染み深いバーチャルフェスやイベントが、海外であまり見られないのは意外に思う人も多いだろう

―― 日本のようなメタバース活用事例が、海外に少ないというのは意外でした。逆に、海外ではどのような場面でメタバースを活用しているのでしょうか?

加藤氏 工場や製造プロセスを3D空間上で再現するデジタルツイン、バーチャルファクトリーなど製造業分野での活用、VRを活用した教育研修での活用例が多い印象です。EUやアジアで、様々な企業と話していてもそれを実感します。

NVIDIAが提供するメタバースプラットフォーム「Omniverse(オムニバース)」内に構築されたBMWの仮想工場。メタバース上で直感的に生産ラインの計画を練ることができる。2025年導入予定の当プロジェクトは、計画時間が短縮されることで生産プロセスが30% 効率化される見込みだ

海外において、製造業や特定のプロジェクトばかりが脚光を浴びるのは、そこにしかニーズがないからではありません。メタバースのような先端技術領域では、一部の業界に投資が集中しがちです。投資が集中するが故に、特定の業界で、巨大企業による、巨大プロジェクトばかりが進んでしまうのです。

しかし、海外で個々の企業にお話を伺っていくと、PRやマーケティングなど、比較的取り組みやすいプロジェクトにもニーズが存在することが分かってきました。しかも、私たちが当たり前に思う日本での活用事例を非常に面白がってくれます。

日本で生まれた、日本らしいメタバースの活用ノウハウは輸出されてしかるべきもので、日本が誇るべきサービスの1つになると考えています。現在は世界各国に広めるべく、各地へ赴いています。

日本のメタバース業界を牽引してきた加藤社長。海外企業と接することで、日本のメタバース活用法が、世界でも通用する手ごたえを感じている

海外に無いメタバース活用が生まれる「日本の土壌」とは

――なぜ、こうした日本らしい、日本ならではのメタバース活用が生まれてきたのでしょうか?

加藤氏  その理由について、自分なりに考察すると3つの答えに行き着きました。

1つ目は、マンガやアニメのカルチャーが日本人には根付いていて、デフォルメされた世界が受け入れやすいということ。海外のメタバースは、リアルに寄せたものが多いという印象です。

(引用:Meta Horizon公式

Meta(元Facebook)が提供するメタバース「Meta Horizon」(上)と「cluster」のアバター(下)

そして、アバターに対して柔軟な考え方があることが、2つ目の答え。「cluster」を覗いてみればわかるように、アバターは人型である必要はありません。例えば動物や野菜を擬人化したものも存在する。日本では、そのようなアバターをビジネスシーンで活用することに比較的抵抗感がないということです。

3つ目は、クリエイターの多さです。弊社はこれまでも一貫して「メタバースの本質は、クリエイターである」と言い続けています。cluster内でも、ユーザー自身が空間を作れる「Creator Kit」というシステムを用意していて、ユーザーの皆さんにはお互いに作ったワールドを共有しあって遊んでもらっています。

ここにはプロもアマも関係ありません。「誰でも自由につくれる」環境さえあれば、クリエイターが多いほど、メタバースの創作活動が活発になります。逆に言えば、メタバースが活発になるかどうかも、クリエイターの力が重要になるわけです。

clusterでは公式がCluster Creator Kitの使い方を学ぶワークショップを定期的を主催し、クリエイターの創作をサポートしている

しかし、海外で立ち上がるVRやメタバースのプロジェクトは、クリエイターの存在が見えないものが多い。その点、日本は3DCGでのアニメ・ゲーム制作の文化が根強い。3DCG創作におけるフリーソフトも充実しており、WikiやSNS等、ユーザーコミュニティも活発です。プロアマ問わず、クリエイターが生み出され、創作活動を促す土壌が出来ている。クリエイター側が常に活動的な状態にあるため、私たちも、彼らを巻き込みながらプロジェクトを展開させやすいのです。

簡単に3DCGモデルが作成可能な「Vroid Studio(ブイロイドスタジオ)」や、直感的に3DCGアニメーションを作れる「MikuMikuDance」といったフリーソフトの存在が、CGクリエイターの間口を広げている。

実際に、私たちも法人とのコラボレーションを行う際には意識的にクリエイターを巻き込みながらプロジェクトを進めています。

また、クラスタークリエイタージョブズというグループ会社では「cluster」上で活動するクリエイターと法人のお客様とのマッチングも行っています。

今、スペインが熱い!? クラスター海外進出の打ち手

―― 貴社に限らず、日本企業にとって世界に打って出るチャンスではないかとワクワクしてきました。

加藤氏 本当にチャンスだと思いますよ! 実はclusterのアクティブユーザー数のうち、30%は北米、EU、東南アジアといった海外ユーザーというデータがあります。今後は、国ごとのユーザーの違いなど、調査・分析も進めていく予定です。

直近だとスペインでの商談を進めています。スペイン語は、英語、中国語に次いで、世界の話者人口が多いので、重要なマーケットの1つであるのは間違いありません。

スペインは「革新的な起業家国家」を目指しているため、起業や研究開発投資に向けた国からの支援が充実しています。ヨーロッパのスタートアップ企業がスペインに集まる機運も高まりもあり、世界展開を見据えるクラスターにとって、スペインでの商談は、大きなチャンスと考えています。

オランダの調査会社ディールルームなどが2023年4月にまとめた「スペイン・エコシステム・レポート2023」によると、スペインにおける2022年のベンチャーキャピタル(VC)のスタートアップ投資額は、年間40億ユーロと、世界で16位の規模となっている

その結果、スペイン・バルセロナの新規事業創出を支援すプログラムであるGameBCN 9th editionに協賛することが決定しました。このプログラムは、ゲームコミュニティやインディーゲーム(少人数・低予算で開発されたゲームソフト)クリエイターの育成と市場発展を目的としていて、欧州のゲーム市場で重要な役割を果たしています。今回の協賛を機に、クラスターは欧州のインディーゲームコミュニティに参画し、ゲームクリエイターの育成とメタバース×ゲームの発展を目指していきます。 

――海外展開に向けた将来的なビジョンを教えてください。

加藤氏 インターネットの良いところは10億人を超える人を相手にビジネスができるところです。現在、10億人を超えるユーザーを抱えるサービスは、FacebookといったSNSやGoogleなどの検索エンジンですが、私たちが目指すのは、3DCGやメタバースでもそのような規模のビジネス領域の1つにすること。

VRデバイスをはじめ、そのような世界を達成するためにはいくつかのイノベーションが必要だと思いますが、デバイスの課題はテクノロジーの進化と共にいずれ解消されるでしょう。

一方で、私たちは、ソフト面の整備だけでなく、3DCGクリエイター・企業同士が、それぞれの技術やノウハウを共有しながら、収益を上げられるエコシステムの構築、さらにはAIにより誰でも3DCG開発ができるツールの開発などを進めていく考えです。

メタバースが持つ「新しい考え方」が成功のカギ

――最後に、企業がメタバースを活用してビジネスを成功させる秘訣について教えてください。

加藤氏 私が企業の方によくお話するのは「リアルにおける固定概念を持ち込もうとしない」ということです。例えば、現実世界では、のどの渇きをいやすために水を買う。しかし、メタバース空間では、水を飲むことができないにもかかわらず、水というアイテムを買う人が存在します。例えば、ゲームに必要な回復アイテムだったり、ファッションかもしれないし、NFTとしての金銭価値かもしれない。消費体験1つとっても現実世界の考え方では理解することができない価値観がメタバースにはある。こうした根本的なところから考え方をアップデートする必要があるのです。

さらに言えば、若手の声を聞く事も必要です。10代、20代の若手社員は、子供の頃から3DCGゲームに触れ、アバターを使ってボイスチャットをして遊んできました。メタバースで行っていることが、彼らデジタルネイティブにとっては当然の技術。気づきにくいユーザー目線も持ち合わせています。若手をプロジェクトチーム内にいれるかどうかでビジネスの成功に大きく左右するかもしれませんね。

新しい考えを持ち、取り入れること。それは古い慣習を捨てることではありません。もともと企業が持っていた独自の考えや技術と融合し、オリジナリティ溢れるものができる。我々もそのお手伝いを今後もしていきたいですね。