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2024.04.22

今こそ「ブランド」で勝つ ~ キーワードは「アンプリファイ(増幅)」

変化の激しい時代、「ブランド」の価値が改めて見直されている。新規事業開発やマーケティング、販売促進などに携わるMetaStep(メタステップ)読者にとっても「ブランディング」は大きな関心ごとだろう。ブランドは、企業が持続的成長を遂げるための重要な要素であることは言うまでもなく、その本質や最新動向を理解することは、ビジネスの成否を分けるといっても過言ではない。

今回、MetaStep(メタステップ)編集部は、世界的なブランドコンサルティングファーム、インターブランドジャパン主催のレセプション「The Bran℃ 2024」を現地取材。BMWやスターバックスなど、世界を代表するブランドを支援する同社が考える「ブランディング戦略の今」を追った。繰り返し語られたキーワードは「ブランドのアンプリファイ(増幅)」だ。(文=MetaStep編集部)

日本のブランドのポテンシャルは高い。今こそブランドをアンプリファイ(増幅)せよ

インターブランドは、1974年にロンドンで設立。今年50周年を迎えた世界最大のブランディングコンサルティングファームだ。日本法人であるインターブランドジャパンも今年が設立から40年。節目となる今年、これまでの取り組みと新たなブランディングへの挑戦を大々的に発表する場として位置づけられたのが、2024年4月18日に開催された「The Bran℃ 2024」だ。

国内の大手事業会社を中心に200人以上が招待され開催された本レセプションの会場は、新国立競技場だ(当日、MetaStep編集部がレセプションに参加した雰囲気は、MetaStep公式noteでもレポートしているので併せてご覧いただきたい)。

オープニングで挨拶に立ったインターブランドジャパン シニアエグゼクティブディレクターの佐藤紀子氏は「今回のレセプションは、会場選びから徹底的にこだわりました。インターブランドにとって節目となる2024年。社としても新しい挑戦をしたい。ベンチマークや前回を超えようという発想ではだめだ。ゼロベースで何か面白いことをやってみようと考え、この新国立競技場という場所を選びました」と会場についての狙いを語り、200人を超える来場者への感謝の意を述べた。

新国立競技場のコンコースで、競技場の雰囲気を感じながら、オープニングと参加者同士による歓談が行われた

「私が誇りに思うのは、例えばブリティッシュ・エアウェイズを利用したときに『このロゴや座席をインターブランドが作ったんだ』と誇れることです」。そう熱く語りかけたのは、乾杯のスピーチで登壇したインターブランド グローバル最高経営責任者&プレジデントのゴンザロ・ブルーホ氏だ。

グローバル最高経営責任者&プレジデントのゴンザロ・ブルーホ氏

「我々は25年間、グローバルのブランド価値評価ランキング『Best Global Brands』を発表しています。このランキングは、グローバルに事業展開を行うブランドを対象に、そのブランドが持つ価値を金額に換算してランキング化するもので、ブランドが顧客に対して提供する価値だけではなく、現在そして未来の社会に対する役割や責任に関する活動の評価もさせて頂いています。おかげさまで、世界における重要なブランドランキングに成長することができました。ここで1,000社を超えるお客様すべてのお名前を挙げることはできませんが、GE、マイクロソフト、スターバックスなど、世界を代表するブランドはもちろん、日本でも多くの企業をご支援させて頂いております」(ゴンザロ・ブルーホ氏)

ゴンザロ・ブルーホ氏は、厳しい競争環境の中で、生き抜いていくためには「強いブランド」が必要とし、グローバルの観点で捉える日本ブランドの価値について「日本ブランドの価値の強みは、①信頼性、②クリエイティビティ、③品質の3つが挙げられます。世界においても倫理観、誠実性、柔軟性が求められており、日本ブランドの『信頼性』は大きな強みです。クリエイティビティについても他国と全く違うアプローチが世界でも評価が高い。『メイドインジャパン』の品質については言うまでもありません。価値の高い日本ブランドは、世界でもっと評価されてしかるべき。そのためには、ブランドをアンプリファイ(増幅)させていく必要があります」と解説した。

レセプションは地下2階の「ANDONホール」で開催され、多くの来場者が登壇に耳を傾けた

今こそ古典的なブランディングから脱却すべき

「皆さん、アンプリファイ(増幅)してますか!?」そう語りかけてスピーチをスタートしたのは、インターブランドジャパン 代表取締役社長 兼 CEO 並木将仁 氏だ。グローバルでブランドに対する高い期待がされるなか、日本は他国に比べ「ブランドに対する期待値が低い」ことに警鐘を鳴らした並木氏。現在のブランディングにおける問題点を熱く解説した。

インターブランドジャパン 代表取締役社長 兼 CEO 並木将仁氏

「モノを売るためにどうやってブランドを作るのか、という課題から、何十年も前に考えられ、欧米で開発された定義、すなわちブランディングをすることで『自社にとって良いことが起きる』という価値のシグナルとしてのブランドは、これまで重要な役割を果たしてきました。ただ、変化の大きいこの時代に、古典的なフレームワークだけでブランディングを行っていることが、まず大きな問題ではないでしょうか。昔のように、商品やサービスのクオリティに対して不安のある中でブランドを選ぶ時代は終焉しました。今の時代、機能的優位性だけで競争優位性をもって勝つことはできません。私の生活をより良いものにして欲しい、という個の欲求だけでなく『社会に対する意味合いを、いかにブランドが持つか』が重要です」(並木氏)

この状況に一石を投じるために、インターブランドジャパンでは「Japan Branding Award」という知見プラットフォームを活用し、日本企業が古典的ブラディングから脱却し、今の世界で求められるブランディングを実現するためのアプローチを考えているという。

インターブランドジャパンの提示する新しいブランディングへのアプローチは、①ブランディング評価軸のシフト、②ブランディング概念、③リーダーたちの内面的シフトだ

ブランディングにおける3つの課題として「答えを当てに行く意識が働き、生活者の声を聞きすぎ」「答えが分からず不安が故に構造化、ルール化に過剰に注力」「どの接点でもブレない均一なメッセージこそを重要視」を提示した並木氏は、この課題を解決しなければ古典的なブランディングから脱却できないとし、ブランディング概念をシフトするうえで重要な5つのレバーを挙げた。

具体的には、①概念レバー(価値だけでない善があるか?)、②組織力レバー(部門依存ではないか?硬直化していないか?)、③体験要素(実態を逆算できているか?ブランドが手離れする前提を持っているか?)、④取組姿勢レバー(ダイナミックに世の中を捉えられているのか?)、⑤関係性レバー(対立構造から脱却ができているか?)を引くことで前述の3つの課題を解決に導けるという。

インターブランドジャパンが提示する課題を解決するための5つのレバー

「私は取組姿勢のレバーが特に重要であると考えています。いくら概念や組織を変えても、それらが硬直化してしまうと、変化の激しい時代においてブランディングが取り残されるリスクをはらんでいる。だからこそブランディング概念をシフトする必要があるわけです。そのためには、正しいブランディングへの理解をしたうえで、知識のシフト、思考のシフト、価値観のシフトが重要であると考えています。私たちは知識を常にアップデートし、最適解がどこにあるかを探しに行く取組の姿勢を持ち、視点・視座・視野を固定しない。ベストプラクティスはないかと探していては、いつまで経っても新しい価値観は生まれないと思っています」(並木氏)

並木氏がブランディング概念をシフトするうえで必要だと掲げた3つの内的シフト

鍵を握るブランディング評価の6つの軸

「私事になりますが、インターブランドジャパンに入社して25年目。インターブランド50年の歴史の半分をこの会社で過ごし、ブランドに携わってきました。この25年、ブランディングの劇的な変化を体感してきました」。

そう語ったのは、インターブランドジャパンで戦略チームを率いるシニアエグゼクティブディレクター ヘッドオブストラテジーの畠山寛光氏だ。

「ブランドのコンテキストは時代により変わり続けます。だからこそ難しいものですが、ブランディングの仕事は本当に楽しい」と語るインターブランドジャパン シニアエグゼクティブディレクター ヘッドオブストラテジーの畠山寛光氏

畠山氏によると、ブランディング概念のシフトは「ブランディング評価の視点」からは以下の6つの軸に落とし込まれるという。

【1】ブランドのコアに善の追求があるか
【2】ブランドが大胆に活動に落とし込まれているか
【3】顧客のストーリーメイキングを軸に考えているか
【4】全社を巻き込む組織設計がなされ有機的に運営されているか
【5】ステークホルダーとコミュニティーを築いているか
【6】価値創造の結果を測定しているか

会場では、6つの軸について、1つ1つ畠山氏が解説しながら、来場者はスマホでアンケートに答えるインタラクティブな形式で進んでいった。

スマホを使い参加者(約160名)がアンケートに答えた。画面は会場でのアンケート結果

「これら6つの問いに対して、すべて右側(5ポイント)の回答ができた会社様は、おそらく今年の「Japan Branding Award」を受賞できます。逆に課題を感じた項目が1つでもある会社様は、インターブランドジャパンにお声がけください(笑)」と畠山氏。プレゼンテーションの最後には、ブランディングに対する思いを熱く語った。

「ブランディングは盲目的に、無責任に行う全体活動ではありません。ブランディングに携わる一人ひとりが、ブランドに対する課題にしっかり向き合い、取組む。それが集まって、はじめて価値あるブランディングが実現すると思います」(畠山氏)

ブランドには世界を変える力がある

「本日のレセプションでご紹介したとおり、ブランディングは今まさに、従来のやり方を脱却しなければなりません。優れたブランディングを実行している組織(企業・団体、事業、製品・サービス)を評価し、その活動内容を紹介、社会に広く共有することで、ブランド戦略を展開する企業・団体のさらなる成長の支援を目的に創設された『Japan Branding Award』も、そうした背景を受け、アップデートすることを決意しました。

「アップデートされた『Japan Branding Award』が、過去から脱却した『新しいブランディング』の契機となれば嬉しい」と佐藤氏

アップデートするためには、クライテリア(評価や判断を行う際の基準や指標)を変えなければなりません。どのようなクライテリアにすべきかという議論をこの半年間重ねてきました。インターブランドジャパンのメンバーだけで考えるのではなく、外部の有識者やブランドリーダーの方々をお招きし、2024年1月には共創ワークセッションも開催しました。今は、まさにアップデートの最終段階です。時代の求めるブランディングの好事例に光が当たり、その輪が広がり、日本企業の競争力が高まることを願っています。

今回、レセプションの中で『アンプリファイ』という言葉がたくさん使われました。日本語ではあまり聞き馴染みがないかもしれませんが『増幅する』という意味。葛藤から生まれる増幅、極限から生まれる増幅、ゼロから生まれる増幅、それらすべてが『アンプリファイ』です。ブランドはそれくらいの爆発力を持って、企業を成長させていくマグマになっていくのではないかと考えていますし、インターブランドジャパンは皆様のブランドのアンプリファイを支援していきます。ブランドには世界を変える力があります」(佐藤氏)

「Japan Branding Award2024」の詳細は2024年6月に発表、選考・審査を経て、2024年12月に受賞ブランドが発表される予定だ。MetaStep(メタステップ)編集部も、引き続きブランディングへの最先端の取り組みに注視していく。

選手更衣室に設けられたクリエイティブゾーンでは、インターブランドジャパンがデザインしたTシャツを1枚お土産に頂けるという演出も。来場者からは「どれにしよう、迷うなぁ」「このデザインも素敵!」など、歓声があがっていた

「新国立競技場で最もエネルギーのある場所を通って帰ってもらいたい」と「The Bran℃ 2024」のクライマックスでは、選手が入場しピッチに入る導線を経由して帰路に。レセプションに感動体験を盛り込む。インターブランドジャパンらしい演出だ