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2024.06.11

いまさら聞けない! 「バーチャルヒューマン」って一体なんだ!?

アバター、デジタルヒューマン、バーチャルヒューマン――。あなたはその違いをきちんと理解しているだろうか。日進月歩のメタバース界隈で、幅広い活用が期待されるバーチャルヒューマン。その定義や構成する技術の最新動向を、バーチャルヒューマンに関する数多くのプロジェクトを手がけるTOPPANホールディングス 事業開発本部ビジネスイノベーションセンターインキュベーション部 課長 チームリーダの田邉 集氏と、プロデューサーの上田 直希氏に話を聞いた。(文=MetaStep編集部)

バーチャルヒューマン、デジタルヒューマン、アバターの違いとは

バーチャルヒューマンをCMに起用!――そんな話題をよく耳にするようになった。

「バーチャルヒューマン」という言葉は確実にホットワードである。しかし、ある時「バーチャルヒューマンって何なの?」とたずねられた筆者は、はっきりと疑問に答えることができなかった。

そこで今回、「バーチャルヒューマン」に関する様々なプロジェクトに携わるTOPPANホールディングス 事業開発本部 チームリーダの田邉 集氏にコンタクト。まずは「バーチャルヒューマンとは何か」という疑問をぶつけると、田邉氏は「まだ明確な定義はないのが現状です」と前置きした上で次のように答えてくれた。

TOPPANホールディングス 事業開発本部チームリーダの田邉 集氏

「リアルタイムな対話など、人とコミュニケーションができるように設計されたコンピュータで生成した人間のようなキャラクターを『バーチャルヒューマン』と呼んでいます。通常、詳細な3Dモデリングやアニメーション技術により作成され、人間のような表情や動作を模倣することが可能なものです」

また「バーチャルヒューマン」と似た言葉に「デジタルヒューマン」という言葉があるが、これは「実在の人物と瓜2つに複製したCG」を指すことが多いとのこと。

「『デジタルヒューマン』と呼ばれるものは、現実世界の人間とほぼ区別がつかないレベルのリアリズムを追求するケースが多い。つまり『デジタルヒューマン』に何かしらの機能を設けているものが『バーチャルヒューマン』だと言えるでしょうか」

さらに、日本ではあまり用いられないが、海外でよく用いられるキーワードに「デジタルダブル」というものがあるという。

「こちらは特に実在の人間を模したCGに何かしらの機能を有したものを指します。例えば、以前当社が技術協力した加山雄三さんのバーチャル化プロジェクトでは、合成音声でご本人そっくりに歌う3DCGが生まれましたが、このようなものが海外では『デジタルダブル』と呼ばれます」

なお、もう一つの似たフレーズで、「アバター」は、メタバースなどの仮想空間やオンラインプラットフォーム内でユーザーのアイデンティティを表現するために使用される。こちらはリアルな人間の姿を模倣したものに限らず、架空のキャラクターやシンボルまで様々な形態がある。

普及への技術的要素はすでに満たしているものの…

「バーチャルヒューマン」という言葉の意味が理解できたところで、現在、この技術はどのような状況にあるのだろうか?

「『バーチャルヒューマン』を実現する技術的なポイントは大きく3つ存在します。それが『状況を理解する技術』『頭脳となる技術』『表現技術』の3つ。『状況を理解する技術』とは、周りに人が立っていることや、相手が何を喋ったかを『バーチャルヒューマン』が理解する技術のこと。これは、センサやカメラなどを活用して実現します。そして『頭脳となる技術』は、状況理解した後に返答を生成する技術を指します。具体的には『生成AI』技術のことです。

3つ目に挙げた『表現技術』は、『バーチャルヒューマン』が人っぽい表情をつくったり、自然に話したりすることを実現させる技術。現在、これらの技術は、ある程度確立されていると考えています(編注:『表現技術』については、田邉氏が責任者を務める『トッパンバーチャルヒューマンラボ』に潜入取材したこちらの記事を参照いただきたい)」

ただし、技術は確立されているものの、普及のためには、まだいくつかのハードルがあるという。

「例えば、先に挙げた3つの技術により『バーチャルヒューマン』が自律的に人と対話することは可能です。しかし、会話の間をつなぐ工夫など、UI/UXをいかにデザインしていくか? その点で課題が残されていると思います。また、映画クオリティの『バーチャルヒューマン』を追い求めると膨大なコストがかかってしまうため、用途に応じて品質とコストのバランスを取る必要があります」

バーチャルヒューマンをビジネス活用する上で必要な視点

高品質な3DCGで表現される「バーチャルヒューマン」は、メタバースのような仮想空間内で利用されることが期待されるが、田邉氏は「メタバースでバーチャルヒューマンが使われるには、もう少し時間がかかると考えている」と言う。それよりも「デジタルサイネージなど、フィジカル空間で活用するケースが先に登場する」と指摘する。

「デジタルサイネージ内で、ユーザーと自律的にコミュニケーションをとりながら、来客者の受付や案内を行う『バーチャルヒューマン』は実用フェーズに入りつつあります。事実、そのようなソリューションは世の中にすでに数多く存在し、実用化も進んでいます」

86インチの大型サイネージに映し出されたバーチャルヒューマンは音声合成技術を使用した対話型AIシステムにより、人と自律的に会話することができる

ビジネス用途で「バーチャルヒューマン」を使って実現できることは受付や案内業務の自動化だけではない。実際に来店客自身の「バーチャルヒューマン」が作成できる装置を店頭に置くことで集客につなげる取り組みや、ユーザーを模したバーチャルヒューマンと画面越しに対話させ、自身のキャリアを考えるきっかけにする大学の取り組みなど、興味深い実証実験が数多く行われている。(編注:同じく『トッパンバーチャルヒューマンラボ』にて詳しく紹介)

では、これから「バーチャルヒューマン」を活用しようとする企業はどのような視点を持っておくべきなのか?

「単に正しい情報を話す情報提供のツールと捉えてしまうと『バーチャルヒューマン』の本質的な価値を見逃してしまいます。やはり、情報に付随して、人間らしい感情や情緒といった部分を提供できることに価値があると考えています。答えが決まっている物を調べる時にはネット検索が便利なように、答えが決まっていない物などで、相談したいような場合にこそ優れている。その点を理解してもらうと活用の幅が広がると思います。また、同じ情報でも誰が伝えるかによって効果は変わります。実際教育現場などで効果測定をした研究もあり、バーチャルヒューマンの表現技術が提供できる価値として期待しています」と田邉氏。

「バーチャルヒューマン」の価値を最大限享受するには、まず、人間そっくりな姿をして、リアルに動くことの価値を正しく認識する必要があると上田氏は語る。

TOPPANホールディングス 事業開発本部 プロデューサーの上田 直希氏

最後に、バーチャルヒューマンへの期待感を田邉氏は熱っぽく語ってくれた。

「人間同士のコミュニケーションにいかに近づけるか、それが鍵を握るでしょう。今後技術がさらに進化し、生身の人間と変わらないコミュニケーションが確実にできるようになる、むしろそれを超える可能性もあるかもしれません。その時バーチャルヒューマンはどのような役割を担っているのか、今から楽しみでなりません」