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2024.06.28

【連載】今こそ「サービス」の本質を知ろう《第2回》メタバースにおける「サービス志向」の重要性

今、日本企業に求められるのは「サービスを設計して管理すること」。サービスの本質を学ぶ連載も早くも第2回目を迎えました(第1回をご覧になっていない方は是非1回記事「サービスはおまけ?」からご覧ください)。

2回では、メタバース・システムに関連して「サービス」を考えていきます。では、DIG2ネクスト鈴木 寿夫社長、よろしくお願いいたします。

DIG2ネクスト株式会社 代表取締役 鈴木 寿夫

1993年に日本ディジタルイクイップメント(現日本HP)入社。2007年に日本人第1号として「ITIL V3」のエキスパート認定資格を取得。2008年12月に同社設立。デジタルサービスマネジメント(VeriSM)、マルチサービスプロバイダエコシステムの統合管理(SIAM)の講師と企業向けのサービスマネジメントやDXに関するコンサルティングに従事し、豊富な経験と知見を持つ。

第1回「サービスはおまけ?」では、サービスとは何かについて簡単な説明をしました。そして、「ハードウェア+ソフトウェアでシステム(仕組み)を構築しても、サービスとしての設計がなされていなければ、ユーザーは便益を得るどころか利用することすらままならない状況になります」とお伝えしました。

この「システム」という言葉は、日常会話やニュース等でもよく耳にする言葉で、例えば「会計システム」「航空管制システム」「自動運転システム」など様々なシステムがあることが分かります。この「システム」とは簡単に言えば「仕組み」のことを指していますが、広辞苑では次のような説明がされています。

「複数の要素が有機的に関係しあい、
 全体としてまとまった機能を発揮している要素の集合体。組織。系統。」

例えば、自動運転システムには自動走行に必要となるカメラ、GPS、レーダーなどの計測装置、ICT(情報通信技術)や制御装置など複数の要素があります。そして、これらの要素を有機的につなぐことによって、自動運転機能を装備した車が、全体としてまとまった機能によって公道を自走することができる集合体ととらえることができます。

ここで重要なのは「システム」という観点は、システムを設計したり構成したり運行したりする“中の人“の視点であるということです。つまり、自動運転システムが利用可能となっている車を所有するユーザー側の観点ではないということです。ユーザーの観点としては、自動運転システムがどのような仕組みで機能(動作)しているかは関心ごとではなく、仕組み(システム)はともあれ、自動走行をして安全に目的地まで到着できるという価値(ユーザーが望む成果)を提供してくれればよいのです。

この価値提供をしてくれる”こと“をサービスといいます。日本では、モノづくり事業からサービス事業へシフトすることを、”モノ“から”コト“へのシフトと表現することがあります。

メタバースのシステム構成

では、メタバースのシステム構成はどのような要素が有機的に繋がり全体として仮想空間プラットフォームを提供しているのでしょうか?

下図は、国立情報学研究所の佐藤一郎教授が、総務省・情報通信政策研究所・情報通信法学研究会・AI分科会(令和4年度第1回、2022年6月29日)向け資料として公開しているメタバースのシステム構成論に含まれる「メタバースのシステム構成(想像)」です。

出典「メタバースのシステム構成論 国立情報学研究所 教授 佐藤一郎氏」(総務省)~総務省・情報通信政策研究所・情報通信法学研究会・AI分科会(令和4年度第1回、2022年6月29日)向け資料~

メタバースのシステムには、主に「ユーザー認証・課金処理」「仮想世界のモデル化・現実」「分析処理・ログ管理」「描画処理」「クライアント端末との通信処理」などが含まれると考えられています。

このようなシステム構成は、システムの制約条件となり得る通信処理や描画処理のボトルネックなどの影響を取り除いたり、システムを保守(メンテナンス)したりする“中の人”の関心ごととして捉えることができます。

そして、メタバース・システムからメタバース・プラットフォームという「サービス(Platform as a Service)」として提供された価値を利用するコンテンツ事業者などは、システムの詳細な構成情報には関心はありません。合意された品質基準を満たすサービスとして利用することで、望まれる成果が得られることが関心ごととなります。

さらに、消費者として仮想空間上のコンテンツやサービスを利用する人は、仮想空間と物理空間の両方に接点を持つということが極めて重要となります。消費者は、物理空間に実態があり生活をおくっている一方で、仮想空間上でも活動しますので、消費者向けのサービスをデザインする場合には、仮想空間だけでなく物理空間との繋がりや相互作用(インタラクション)を含めて、消費者体験(CX: Consumer eXperience )を考慮したサービスとして設計しなければなりません。

システム志向からサービス志向へのパラダイムシフト

Web3やメタバースを活用して、どのようにビジネスを創出するかを検討する際、どうしてもこれらの技術を使って何が実現できるのか?  どのような機能を開発すればよいか?といった技術を中心とした個別システム開発(個別に技術を実装した仕組みを作ること)の発想になってしまう危険性があります。そして、消費者観点の全体を俯瞰したサービスとしての設計が不十分であれば、開発されたシステムを活用することはできません。

マイナンバーのシステムがこのケースにあたると考えられます。マイナンバー(個人番号)制度(行政手続等における特定の個人を識別するための制度。行政機関等の間での情報連携により、各種の行政手続における添付書類の省略などが可能となる)をサポートするために開発されたシステムです。

このシステムは、健康保険、社会保障、税制、災害対策などの行政サービスを、各自治体や組織がもつ既存の個別システムとどのように連携し、消費者(行政サービスを利用する者や行政サービスを提供する者)に対して、どのような価値(利便性や効率化)を提供できるかを、全体を俯瞰したサービスとして検討しておく必要があったと考えられます。

しかしながら、会計検査院が2024年5月15日に公表した活用状況では、「全国約1800自治体を対象に、1258機能の利用状況を確認し、半数以上の自治体が利用したのは33機能、1割未満の自治体しか使っていないのは649機能。全体の97%の機能が半数未満の自治体でしか利用されておらず、485機能は全く使われていなかった。」とされています。

このように、モノづくりを得意とする日本では、システム(モノ)や多くの機能を作ることに注力しがちになります。しかしながら、今まさに必要なのは個別システムを作る「システム志向」のパラダイムから、全体を俯瞰したサービスとして価値を創出する「サービス志向」のパラダイムにシフトする必要があります。

次回は、「サービス」を「マネジメントする」ことの重要性について考察していきたいと思います。

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