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2024.09.11

【連載】新しいインフラ構築の形「DePIN」の未来を語る(第2回)

Web3を用いて、個人がインフラの構築に貢献し、報酬を獲得できる技術「DePIN(ディーピン)」。今後、人材・資源不足などが懸念される私たちの社会においてその必要性が高まりつつある中、有識者であるNECさんに、DePINの基礎から未来まで知見をご共有頂く本連載。第2回では、DePINを活用したプロジェクトから、DePINの構造を理解していきましょう。それでは、よろしくお願い致します。

日本電気株式会社 コーポレート事業開発部門 事業開発統括部

シニアプロフェッショナル

通信事業者向けの基幹系/情報系システム開発にアプリケーションエンジニアとして従事。その後は、海外の様々なシステムインレグレーションや提案プロジェクトを経て、現在はWeb3などの新規ビジネス開発に取り組む。

井上智紀

 日本電気株式会社 コーポレート事業開発部門 事業開発統括部

リードビジネスデザイナー 

入社以降、研究所にて新世代ネットワークの研究に従事。シリコンバレー地域に赴任し共創型で世界初の分散型ネットワーク制御装置の設計とOSS開発をリード。帰国後ブロックチェーンの研究開発と事業化推進を経て、現在はWeb3関連の新規ビジネス開発に取り組む。

小出俊夫

様々なDePINプロジェクト

第1回のプロジェクトを知ることでDePINがどういったものなのか、理解が進んだのではないでしょうか。但し、前回紹介した3プロジェクトは代表的なもので、これ以外にも沢山の興味深いDePINプロジェクトが進展しており、また日々新しいDePINプロジェクトが誕生し続けています。

(引用: IoTex DePIN Landscape)

上記のDePINランドスケープ図が示すように、様々な分野でDePINプロジェクトは存在していますが、このマップも全プロジェクトの一部を示しているに過ぎません。例えば、DePIN管理ツール大手のHotspotty(ホットスポッティ)が提供するDePIN Hubのデータによると、全世界でカウントされる DePIN プロジェクトは約140件以上と推定されています。

同じくDePIN管理プラットフォームであるIOTeX のプロジェクト検索ツール DePINscan のデータカウントによると約250件を超えるDePINプロジェクトが動いています。(2024年7月時点)

これら、DePIN Hub、DePINscanのサイトでは、日々リアルタイムで全世界のDePINプロジェクトの状況や時価総額が反映されており、誰でも参照することが出来ます。動向を把握したい方はアクセスしてご覧ください。

 (引用:DePINhub

 (引用:DePINscan

DePINという言葉の起源

実はDePINという言葉が広まる以前から、Web3で物理インフラストラクチャを活用する概念や議論はありました。過去2021年にはMachineFi(マシーンファイ)といった造語があり、2022年には、Proof of Physical Work(PoPW)、Token Incentivized Physical Infrastructure Networks(TIPIN)、EdgeFiといった造語が生まれていました。

DePINという言葉は2022年に暗号資産リサーチ企業であるMessari(メサリ)がTwitter投票を実施したことで広まり、使われ始めたという経緯があります。

 (引用: IoTex DePIN Timeline)

物理リソース (PRN) とデジタル リソース (DRN)

さて、前述で引用したDePINランドスケープ図をみると、PRN(Physical Resource Networks)と、DRN(Digital Resource Networks)という2種類に大きく分類されている点に気付くかと思います。

DePINは、扱うリソースの性質によって分類することが可能で、それぞれが異なる特性と運用方法を持っています。PRNは物理リソースネットワーク、DRNはデジタルリソースネットワークを指しますが、これらの言葉の意味もDePINの理解を深めるために抑えておきましょう。

(表: PRNとDRN)

PRN は、場所固有のインフラストラクチャサービスの最適化と民主化に重点を置いているDePINプロジェクトです。

一方、DRN はデジタル リソースへのアクセスを民主化し、コンピューティング機能とストレージ機能を世界中に広く分散できるようにするDePINプロジェクトです。

それぞれの分類の配下にはさらに詳細な分類がなされていますが、大きくPRNとDRNという分類を設けることで、DePINプロジェクトの市場理解が深まり、プロジェクトの価値提案や運用モデルをより理解しやすくなります。

従来のインフラとDePINの違い

さて次は、DePINをより理解するために、従来のインフラとDePINを3つの観点から比較してみましょう。比較することでDePINのメリットや得意な領域がよりクリアに分かるようになります。

 (表: 従来のインフラとDePINの比較)

所有権と管理構造

従来のインフラは、大企業や政府機関が所有し、中央集権的に管理しています。例えば、電力会社が電力網を、通信会社が通信インフラを所有しています。個人や小規模事業者が直接インフラを所有することは少なく、利用者としてサービスを受ける立場にあります。

一方、DePINでは、インフラの所有権が分散されます。具体的には、ユーザーやコミュニティがインフラの一部を所有し、ネットワーク全体を共同で運営します。例えば、Heliumネットワークでは、ユーザーが自宅に無線LANの接続場所(ホットスポット)を設置し、それがネットワークの一部として機能します。各ホットスポットの所有者は、ネットワークの一部を実際に所有しているのです。

DePINは、インフラの所有権と管理構造を分散化することで、利用者の参加と貢献を促進し、より柔軟で効率的なインフラ運営を目指しています。従来の中央集権的なインフラ運営に対する新しいアプローチとして注目されている側面です。

初期コストと運用費用

従来のインフラは初期コストが高額になります。建設費や設備費に加え、人件費や管理費も必要で、インフラが大規模になるほど費用が増大します。長期的な運営には膨大な資金が必要です。

一方、DePINは初期コストが比較的低く抑えられます。個々のユーザーや小規模の投資家がネットワークの一部を購入・所有し、共同でインフラを構築するためです。

例えば、Heliumネットワークでは、ユーザーが自宅に安価なホットスポットデバイスを購入して設置します。DePINのひとつHivemapper(※第1回参照)では、ドライバーが自分の車を利用してデータを収集するため、中央集権的な組織がインフラ資産を保有・管理する必要がありません。

これにより、人件費や管理費が削減され、DePINは従来のインフラに比べて初期コストと運用費用の両方で優位性を持っています。

インセンティブメカニズム

従来のインフラでは、利用者はサービス提供者(例えば電力会社や通信会社)からサービスを購入します。料金を支払うことで、電気や通信などのサービスを利用でき、料金に見合った良質なサービスやサポートを期待します。サービス提供者にとってのインセンティブは、主に利益の追求であり、他の提供者との競争が動機となります。

DePINでは、利用者がネットワークの運営や拡大に直接関与します。例えば、Heliumネットワークでは、ユーザーがホットスポットを設置して通信範囲(ネットワークカバレッジ)を提供すると、暗号資産HNTトークンが報酬として得られます。これにより、利用者はネットワークに貢献し、トークンという形で直接的な利益を得ることができます。

DePINの運営者は、初期段階でトークンを発行し、資金調達を行います。ネットワークが成長するにつれてトークンの価値が上昇する可能性があり、初期投資者にとって大きなインセンティブとなります。

DePINのインセンティブメカニズムは、参加者がネットワークの価値を共有し、直接的な利益を得ることができるため、従来の中央集権型インフラに比べて、より参加型で持続可能な仕組みであると言えます。

このように、従来のインフラと比較するとDePINの性質やメリットがよく分かります。新しいアプローチであるDePINは、従来のインフラに対する効果的な代替手段として注目されています。

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