MetaStep(メタステップ)編集部が、JapanStep パートナー企業 クラスターとコラボでお届けしている連載コラム「あなたの知らないクラスターの世界」。具体的に活用されているメタバース事例にこそ、今後の活用への学びやヒント、気づきがあると考え、MetaStep編集部は、clusterを活用した事例の取材を続けている。
今回のテーマは医療分野におけるメタバース活用。主人公はメタバースを用いた患者支援活動をする岡山大学学術研究院医歯薬学域 長谷井嬢教授だ。全国の医療施設にいる小児・AYA(思春期・若年成人)世代の希少がん患者さんをメタバース空間でつなぎ交流させるプロジェクトは、多くの患者さんの心の拠り所となり、新たな医療の可能性を示した。本プロジェクトの実現に向け、どのような課外があり、乗り越えたのか。長谷井氏に話を聞いた。(文=MetaStep編集部)
お話を伺ったのは
長谷井氏の専門は整形外科。骨、軟骨、筋、神経など運動器官を構成するすべての組織を対象に病態の解明と治療法の開発および診療を行う専門領域だ。意外と知られていないが、骨や筋肉などにできるがんも整形外科医の範疇で、長谷井氏は特に骨、筋肉、神経、脂肪などにできる悪性腫瘍を専門とする。
「子どもの骨肉腫は年間で200人くらいしかいません。もちろん嬉しいものではないですが、宝くじに当たるほどかなり低い確率です。患者数が少ないがゆえに、患者さんが抱える問題があります。それは自分がかかっている病気について思いを共有できる同世代の人が周りにいないことです。2022年に世の中で少しメタバースがトレンドになった頃、メタバースを活用すれば、こうした課題を解決できないかと考えたのがプロジェクトのきっかけです」(長谷井氏)
全国各地に点在する子どもの患者さんたちをつなぐには、オンラインしかない。テレビ会議システムなども選択肢にあったが、メタバースの方が良いと長谷井氏は感じたという。
「患者さんのなかには化学療法の副作用で髪の毛が抜けてしまっている方もいるので、テレビ会議システムで顔を出して話すのには抵抗があります。メタバースの世界でアバターとして会話をすることができれば、見た目も気にせず自然に会話ができるのではないかと感じました」
だが、実際にプロジェクトをかたちにするために、長谷井氏は様々な課題に直面した。まずは予算の課題だ。複数のメタバースプラットフォーマーに相談を持ち掛けたものの、予算を理由に断られた。一方で、プラットフォームを調べるうちに、自身が使いたいプラットフォームがclusterであると確信。クラスター社においても予算の課題は同様で、すぐに理想とする環境を依頼することはできなかったが、以降はなんとしてもclusterでプロジェクトを推進したいと決めたという。
「clusterは、日本語で患者さんが使いやすいですし、マルチデバイス対応もしている。患者さんが病室でVRゴーグルを付ける想定は難しく、スマホでも入ることができるのは魅力でした。クラスターにお支払いできる予算がないのであれば、まずはできるだけコストをかけずにやれる方法を画策しよう、とトライし始めました」
長谷井氏は、個人利用であれば、クラスター社が提供するcluster内で簡単にワールドを作ることができる「ワールドクラフト」機能に注目。自分だけで構築が難しい場合は、X(旧Twitter)でクリエイターを探し、協力も仰ぎながらワールドを作っていった。
「VRChatの空間で交流や質問をしていけば、問題が解決するとも考えたのですが、勇気がなく(笑)、Xでクリエイターにコンタクトすることにしました。結果、それが良かった。ポートフォリオを出しているクリエイターも多く参考になりましたし、人柄も分かる。プロジェクトに賛同してくれ、ワールドづくりにも詳しい方のお力もお借りすることができました」と長谷井氏は、嬉しそうに語った。