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2024.05.02

知っておくべきWeb3の本質(第1回)~ビジネスにどんな影響を及ぼすのか

Web3のビジネス活用を進めるために、まずWeb3についての正しい知識をインプットすることが必要不可欠です。今回、MetaStep(メタステップ)編集部は、是非Web3に詳しい方にコラムをご寄稿頂きたいと、パートナー企業であるNTTデータさんとご相談。

金業業界を中心にITのグランドデザイン策定などを手掛け、『Web3と自律分散型社会が描く銀行の未来』の著者でもある株式会社NTTデータ山本英生さんと土田 真子さん、相川 あずささんに連載コラムをお引き受け頂きました!

タイトルは「知っておくべきWeb3の本質」です。コラムを通じ、読者の皆様のWeb3への関心や見識が少しでも深まって頂けると嬉しいです。では、皆さまよろしくお願い致します。

株式会社NTTデータ 金融イノベーション本部 ビジネスデザイン室
イノベーションリーダシップ統括部 統括部長

グリーン、量子コンピュータ、AI、RPA、データマネジメント、センシングファイナンス、メタバースなどの幅広いテクノロジー領域について各種コンサルティングや情報発信を実施、金融版NTT DATA Technology Foresightも責任者として推進。

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山本 英生

株式会社NTTデータ 金融イノベーション本部 ビジネスデザイン室
イノベーションリーダシップ統括部 課長

大規模金融システム開発、金融系コンサルタントを経て、現在は「テクノロジーは金融ビジネスを大きく変革させる」ということを主なテーマとし、金融ビジネスに影響を及ぼすテクノロジートレンドを、金融版NTT DATA Technology Foresightで調査・発信。

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土田 真子

株式会社NTTデータ 金融イノベーション本部 ビジネスデザイン室
イノベーションリーダシップ統括部 課長

入社以降、金融業界を中心とした数々の基幹系/情報系システムの開発にデータベースエンジニアとして従事。現在はWeb3やメタバースを含むテクノロジートレンドに係る情報発信や戦略検討、新規ビジネス発掘に取り組む。

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相川 あずさ

Web3とは何か?

Web3という言葉はいろいろなところで目にしていると思いますが、改めて説明をしてみたいと思います。Web3を一言でいうと、分散型のインターネットの概念、といえると思います。もう少し丁寧にいうならば、詳細は後ほどきちんとご説明しますが、Web2.0と言われている巨大テック企業への権力集中に対する批判から、「分散的」かつ「民主主義」的な手法で新たな経済システムを生み出し、その成果を利用者に分配する世界観がWeb3である、という風に言っても良いと思います。

技術的な観点ではビットコインの登場により注目を浴びたブロックチェーンという分散処理技術の急速な社会的な実装がもたらしたトレンドといういい方もできるでしょう。なお、論者によってはWeb3とWeb3.0を同義に語っている人とそうでない人に分かれますが、本稿では意識して別物として記述しております。一方で分散型のインターネットという意味合いでWeb3.0と使っている限りにおいては同じ意味あいではありますので、あまり細かく区別せずとも意味が通じればよいとも思っておりますので、そういったノリで以降読んでいただければ幸いです。

Web3に至る流れ(1):Web1.0

Web3というからにはその前の「1」とか「2」という話があるわけで、Web3という概念が登場するまでのインターネットの変遷を見ていきましょう。(図1参照)

個の世界観では、インターネットは、第1世代のWeb1.0、第2世代のWeb2.0、第3世代のWeb3という順で進化を遂げている、という流れになっております。

図1

まずWeb1.0は、インターネットが普及し始めた1990年代のWebを指しております。この時代のウェブサイトは、htmlを用いたテキストサイトが主流で、テキストの閲覧や検索といった一方向のコミュニケーションが中心でした。世界のどこからでもインターネットに接続さえできれば、いろいろな人が立ち上げてウェブサイトにアクセスできるようになった、という意味で画期的でしたが、ウェブサイト上での双方向なやりとりはできておらず(もちろんメールでの双方向のやり取りはありました)、今の時代からみると不便な状態ではありました。

一方で世界とつながるという夢のある話はその当時の人を盛り上げたのも事実で、新しいアイデアが次々と出されて多様なチャレンジが行われておりました。今となってはメジャーな企業、例えばGoogleamazonもこの当時に起業され、インターネット上の困りごとの解決や新しい価値訴求に成功したことで今に至っております。

Web3に至る流れ(2):Web2.0

2000年代に入り、Web2.0が登場します。Web2.0はTwitterやYouTube、Facebook、InstagramといったSNSの普及より、Web1.0では実現不可能であった情報発信者と閲覧者の双方向的なやりとりが可能となった時代を指します。ブロードバンドと言われるインターネットの通信速度が高速化・大容量化により容量の大きなデータも素早くやり取りできるようになったため、画像や動画などのアップロードも容易となりました。

Web2.0 の普及によって誰もが自由に情報を発信できるようになり、それに伴って一部の企業におけるサービスのユーザーは爆発的に増加することにつながりました。サービスの利用者が増えるほど、サービス利用時にユーザーが登録するアカウント情報、検索履歴などプラットフォーム内での活動ログといった個人のあらゆる情報が巨大テック企業に集中する形となり、情報が集まるほどより巨大テック企業の影響力は増し、市場の独占・寡占につながって行きました。

この流れは利用者の利便性向上に大きく貢献しました。広告とうまく組み合わせるなどビジネスモデル上の工夫を洗練させることで様々ウェブ上のサービスが無償で提供され、利用者の利便性は劇的に向上しました。

一方で、利用者の個人情報や活動ログなどのデータが大手テック企業のためだけに使われる懸念や、何らかの理由で利用者として排除されてしまうと代替の手段が存在しない、といういみで巨大テック企業が非常に大きな権力を獲得した時代でもありました。このテック企業への反発がWeb3への流れを生みます。

Web3に至る流れ(3):Web3の誕生

ここまでご説明してきたWeb2.0の抱えるリスクや問題点が解消できると期待されているのが、Web3ということになります。Web3では、「分散型ネットワーク」の仕組みをブロックチェーン技術により実現することで、中央集権型ネットワークの問題を解決することを目的として作られております。分散型ネットワークを別の言い方をするならば「誰でも閲覧・検証が可能なネットワーク」ということであり、情報資産を相互に監視できる多方向のコミュニケーションが実現されるのです。Web3では巨大テック企業のような仲介者による監視が不要となり、また、分散型ネットワークによって、データの改ざんや不正アクセスをいち早く検出し、プライバシーを個々で守りやすい仕組みを作ることが期待されています。。

なお、冒頭で触れたように本稿では「Web3」と「Web3.0」は以下の意味あいで使っております。「Web3.0」は、「Web2.0」の延長線上にあるセマンティックWebというものを指していると認識しております。セマンティックWebとは、Webページに記述された内容について、それが何を意味するかを表す「情報についての情報(メタデータ)」を一定の規則に従って付加し、コンピュータシステムによる自律的な情報の収集や加工を可能にする構想です。1998年にWeb(WWW:World Wide Web)の創始者であるティム・バーナーズ・リー(Timothy J. Berners-Lee)氏が提唱し、同氏の主導するWeb関連技術規格の標準化団体W3C(World Wide Web Consortium)内のプロジェクトとして推進されておりました。。その後、イーサリアム(Ethereum)の共同創業者であるギャビン・ウッドが2014年に提唱したアイデアで、「ブロックチェーンに基づく分散型オンラインエコシステム」として「Web3」を定義しており、言葉としては別物という認識です。

Web3の肝は所有と自己責任

Web3を理解するにあたってのポイントはどう考えれば良いでしょうか?筆者としては肝となるポイントが2つあると考えております。まず1つ目は「所有」というキーワードです。Web3を代表するサービスとしてNFTやDAO、暗号資産、STなどいずれもこういったものを所有するというとこからスタートします。例えばNFTといったデジタル資産はオーナー(=所有者)となるところから始まります。保有しているデジタル資産をウォレットで保管し、またそれらをNFTマーケットプレイスや暗号資産取引所などで売買することも可能になります。

またNFTを創り出したクリエイターやアーティストも、NFTのオーナーシップを合わせて持つことも可能で、二次流通以降のロイヤリティ還元に決定することもできるのです。NFT以外でもDAOと呼ばれる組織形態では、ガバナンストークンを保有したメンバーによって組織が運営されます。当該組織自体の所有権を分配するという思想になっているのです。この所有するという行為が起点となり、また所有しているということで発生するベネフィットの分配や意思決定の関与することができるのです。

次に2つ目のキーワードは「自己責任」です。先述の通り巨大テック企業のような仲介者がいないことを前提にしております。したがって何かを行った際にトラブルが起きた場合、仲介者がいる場合であれば仲介者に対して救済を求めることができますが、Web3ではそうはいきません。あくまで自己責任であり、何かトラブルが起きた場合に自力で対応できない人が生半可に関与すると大けがをすることになります。

例えば2016年に起こった「The DAO事件」を引き合いにしてご説明します。「The DAO」というイーサリアムのプラットフォーム上の分散投資組織で、運営資金としてプールされていた約150億円もの暗号資産による資金を集め話題になりました。しかし、運営に賛同しない投資家が預けている自分の資金をDAOから切り離し、新しいDAOを作成することができる「スプリット」という機能にバグがあり、このぜい弱性に付け込んだハッカーによって、当時の価格にして約52億円ともいわれる不正な資金送金事件が発生しました。こういった例は他にも多数あり、嫌が上でも自己責任ということを意識せざる得ないというのが現状です。

Web3はバラ色の未来?

ここまでの議論をまとめると、Web3は巨大テック企業への権力の集中へのアンチテーゼとして出てきており、うまく利用できれば一定の意味・価値はあります。一方で自己責任という部分が悪い方向で出てしまうと、すべての人がWeb3のベネフィットを享受することは難しくなります。テクノロジー界隈ではWeb3礼賛論はよく聞かれますし、極端な意見ではWeb3がすべてを覆いつくす、というような論説も耳にします。

しかしこれまで議論した通りWeb3の欠点をクリアするなんらかの方法を整備しない限り、全面的に社会実装されるには難しいのではないと考えます。むしろWeb2.0の世界がメインストリームであることは当分変わらず細々とWeb3の世界が併存するというのが現実的ではないかと思います。(図2参照)

図2

お互いの欠点を高いレベルで解決できるならそれが一番ですが、まだまだ解決しなくてはいけない課題が多数あるということだと思います。