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2024.06.03

【連載】今こそ「サービス」の本質を知ろう《第1回》サービスはおまけ?

「サービス」という言葉。日頃当たり前のように使われていますが、ビジネスやDXという観点で「サービス」や「サービスマネジメント」について、正しく説明できるでしょうか。MetaStep(メタステップ)のパートナー企業である、DIG2ネクストの代表鈴木寿夫さんは「日本では政府や企業だけでなく、メディアも含めた社会全体が、サービスマネジメントに対するリテラシーが不足している。そのため、日本はグローバルに比べると、ビジネスが周回――、いや、三周は遅れている」と熱く語ります。

Web3やメタバースのビジネス活用においても、「サービス」をマネジメントすることは最重要テーマです。今回MetaStep編集部は、鈴木寿夫社長にコラム執筆を依頼。全5回にわたり、サービスやサービスマネジメントの本質について、教えていただきます。

DIG2ネクスト株式会社 代表取締役 鈴木 寿夫

1993年に日本ディジタルイクイップメント(現日本HP)入社。2007年に日本人第1号として「ITIL V3」のエキスパート認定資格を取得。2008年12月に同社設立。デジタルサービスマネジメント(VeriSM)、マルチサービスプロバイダエコシステムの統合管理(SIAM)の講師と企業向けのサービスマネジメントやDXに関するコンサルティングに従事し、豊富な経験と知見を持つ。

日本はモノづくりにおいては非常に優れた能力を保持していますが、サービスにおいては生産性が低いと言われています。そして、サービスすることを「おもてなしの心」で奉仕することだと考えてしまうと、お客様のために何でもやってあげることが優れたサービスという認識も生まれてきます。

現在、カスタマーハラスメント(カスハラ)が社会的な問題となっていますが、お客様に提供されるサービスに関する明文化された基準(サービスレベルやサービス規約という)がなく、日本ならではの“暗黙の了解”でサービスを提供していると、両者に認識の齟齬が発生するため、期待とのギャップによる不満足がストレスとして爆発することになります。

日本企業に求められるのは、サービスを設計して管理する、例えばサービス提供の範囲や品質基準(SLA)を明確にすることで、何でも「おもてなしの心」でやってあげるという暗黙の状況を改める必要がある、と考えられます。Web3やメタバースの世界では、ボーダレスな仮想空間の中で日本人だけではなく、様々な文化や考え方を持つ人々が経済圏やコミュニティを結成します。さらにサイバー空間とフィジカル空間を融合したSociety5.0まで見据えた新規ビジネスを開発するという想定においても、サービスの設計や提供に対するマネジメント(これを「サービスマネジメント」という)は、グローバル(サイバー&フィジカル空間含む)に通用するものでなければならないと私は考えています。

サービスは無償のおもてなしではない!

「これサービスしておくよ!」「もう少しサービスできない?」「18:00~タイムサービス」など、日本の商店街でよく見かけるお買い物の日常の風景。

日本では、古くからサービスは「無料」、「おまけ」、「特典」などの意味で広く使われています。しかし、英語で無料はFree(フリー)、おまけや特典はBonus(ボーナス)という単語が存在し、海外ではServicesを無償とは考えてはいないでしょう。インバウンドで賑わう日本に旅行で訪れている外国人に「これサービスねっ!」と言ったら、「えっ!いくらですか?」と戸惑うことでしょう。

逆に日本人は海外旅行でレストランを利用した時に、Service Fee(サービス料金)が食事代に加算されているのをみると、違和感を覚えるのではないでしょうか?確かに、海外のレストランでは、テーブルに専属のスタッフがついて、お料理を給仕(サーブ:Serve)して頂き「お食事はいかが?何か要望はある?食事を楽しんでね!」とお客様の食事体験の向上に努めてサービス(接客)をしてくれます。そして、そのサービスは無償ではなくその労力に対してサービス対価をきちんとお支払いする訳です。

サービス=有償が世界の一般的な認識だと分かると思います。かつて「水」や「緑茶」「おむすび」などをお店で購入するという認識や習慣がなかった日本人が、今では当たり前のようにそれらを購入するように行動変容しているように、サービスも対価を支払うものだという認識が一般的に定着する日も近いのではないでしょうか?

サービスという付加価値による差別化

私は2005年頃に、日本の大手製造業(メーカー)でサービスマネジメントに関する教育研修の商談に行った際に、担当の方から「私はサービスマネジメントという言葉は好きではないんです。サービスと言ったら何を無料にしてくれるのか?と言われてしまうので、システムマネジメントと言うのが良いと思っているんです」と言われたことがあります。

サービスという言葉が市民権を得たのは、「クラウドサービス」が登場して社会的に認知が広がった2010年くらいから。サービスという言葉が日常にも浸透をして、サービスは有償であるという認識も広がったと私は感じています。

過去のIT業界では、ハードウェアが「主役」で、ソフトウェアは「おまけ」という時代がありました。高価なハードウェアもそれを動作させるにはソフトウェアが必要であるため、ハードウェアを販売するためにソフトウェアを、いわばおまけとして、ハードウェアの付属品としてバンドルしていました。しかし、現代ではハードウェアはコモディティ化して昔と比較して安価になったため、ソフトウェアによる付加価値や差別化が重要になってきています。

そして、アプリケーションソフトウェアをネットワーク経由で提供すること(これが「ユーザーが認識するサービス」となる)で、企業がサービスプロバイダ(サービス提供事業者)としてユーザーに付加価値を提供することが可能となっています。Web3やメタバースの世界でも、単にブロックチェーン技術やトークンなどのプラットフォームが基盤としてあっても、ユーザーに対する革新的なサービス(アプリケーション)が提供されて初めて価値共創や価値交換によるベネフィット(便益)をユーザーが得ることができるのです。それらのサービスの範囲やサービス基準(SLA)を明確化して管理するための「サービスマネジメント」が不可欠であることは明らかです。

ただし、ハードウェア+ソフトウェアでシステム(仕組み)を構築して、「はいシステムが出来たから、このシステムを使ってください」といったところで、サービスとしての設計がなされていなければ、ユーザーは便益を得るどころか利用することすらままならない状況になります。

次回は、「サービス .vs. システム」について考察をしていきたいと思います。

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