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2024.08.29

【連載】新しいインフラ構築の形「DePIN」の未来を語る(第1回)

ウェブの世界が第3段階へと移行したとされるWeb3は、私たちの社会、ビジネスを大きく変えようとしています。ブロックチェーン、NFT、暗号資産などさまざまなテクノロジーやサービスを内包するWeb3ですが、本連載で取り上げるのはDePIN(ディーピン)。個人がインフラの構築に貢献し、報酬を獲得できる仕組みです。

人口減少、枯渇する資源などが叫ばれる中、企業だけでなく個人の力も結集し、皆で社会を支え合う場面が増えるにつれ、DePINの必要性も高まっています。今回MetaStep編集部は、パートナー企業のNECさん(以下、敬称略)にコラム執筆を依頼しました。Web3領域において、安心・安全にデータを利活用できる社会を構築し、さまざまな社会課題を解決するサービスや事業を創出しているNECでWeb3事業を手掛ける事業開発統括部の井上智紀氏、小出俊夫氏にDePINについて教えていただきます。それでは、よろしくお願い致します。

日本電気株式会社 コーポレート事業開発部門 事業開発統括部

シニアプロフェッショナル

通信事業者向けの基幹系/情報系システム開発にアプリケーションエンジニアとして従事。その後は、海外の様々なシステムインレグレーションや提案プロジェクトを経て、現在はWeb3などの新規ビジネス開発に取り組む。

井上智紀

 日本電気株式会社 コーポレート事業開発部門 事業開発統括部

リードビジネスデザイナー 

入社以降、研究所にて新世代ネットワークの研究に従事。シリコンバレー地域に赴任し共創型で世界初の分散型ネットワーク制御装置の設計とOSS開発をリード。帰国後ブロックチェーンの研究開発と事業化推進を経て、現在はWeb3関連の新規ビジネス開発に取り組む。

小出俊夫

DePINとは何か?

DePIN(ディーピン)とは、Decentralized Physical Infrastructure Networkの略で、ブロックチェーン技術を活用して現実世界のインフラを構築・維持するプロジェクトを指します。

具体的には、電力網や通信インフラの分散化、共有ストレージシステムなどが挙げられます。このDePINに参加する人々は、インフラの提供や運営に貢献することで、報酬として暗号資産のトークンを受け取ります。こうした活動を通じて、従来の中央集権的な管理から脱却し、透明性と効率性を向上させることが出来る仕組みも含めてDePINと表現する場合が多いです。

簡潔に言えば、「DePINとは、現実世界のインフラやリソースを、ブロックチェーン技術を用いて皆で活用するプロジェクトや概念」と定義できます。

Web3とDePINの関係

ここでWeb3とDePINの関係についても触れておきましょう。Web3とはブロックチェーン技術を基盤にして、分散型のインターネットを実現する次世代のウェブの概念と言えます。

※Web3の基礎については、連載コラム「知っておくべきWeb3の本質」 も併せてご覧ください。

DePINは、物理的なインフラの分散化に焦点を当てたWeb3の一部と言えます。Web3は一部では関心が高まっている一方で、まだ一般の人々に広く浸透しているとは言い難い状況です。その理由の一つは、Web3が私たちの日常生活にどのように役立つのか、具体的にイメージし辛い点にあると言えるでしょう。これまで、Web3は仮想世界の話に感じられ、実生活での具体的な利用例が少なかったためです。

しかし、DePINの登場によって状況が変わりつつあります。DePINは、私たちの身近なインフラストラクチャにWeb3の技術を取り入れることで、日常生活に直接的な影響を与えて普及する可能性を持っています。これがDePINが注目を集めている理由の一つです。

具体的なDePINの事例

DePINを理解するには、実際のDePINプロジェクトがどのようなものか見てみるのが良いでしょう。ここでは代表的なプロジェクトに絞って3つ紹介します。

※下記の初心者向け記事も併せてご覧ください。

NFTの新技術DePIN(ディーピン)!初心者向けにわかりやすく解説

分散型アプローチでサービス革新:DePIN(ディーピン)を利用した4つの活用事例を紹介

1. Hivemapper(ハイブマッパー) 分散型の地図作成プロジェクト

(引用:Hivemapper)

Hivemapperは、ブロックチェーンを利用した分散型の地図サービスで、代表的なDePINプロジェクトのひとつです。

従来の主要な世界地図サービス(Googleマップなど)は、一つの企業が莫大なコストをかけてデータを収集し、メンテナンスを行っています。

それとは違い、Hivemapperは一般の人々が行います。車に専用のドライブレコーダーを取り付けて運転してもらうことで、地図データを収集する仕組みを採用しています。データの収集に貢献したユーザーには、報酬として暗号資産HONEY(ハニー)が与えられます。世界中のドライバーの協力を得て、リアルタイムで地図を作成し、情報を更新するというコンセプトです。

 (引用:Hivemapper)

2. Filecoin(ファイルコイン) 分散型ストレージネットワーク

(引用:Filecoin)

Filecoinは、ブロックチェーンを活用した分散型ファイルストレージシステムです。ユーザーは自分のストレージ(=データ保存領域)スペースを他の人に提供することで、報酬として暗号資産FIL(フィル)を得ることができます。一方で、データを保存したいユーザーは、安全かつ低コストでデータを保存することが可能です。Filecoinは、余剰のインフラリソースを他者に有効利用してもらうDePINプロジェクトと言えるでしょう。

Filecoinは、IPFS(*1)というファイル保存・共有プロトコルを利用し、その上にインセインティブメカニズムを構築しています。

(*1) IPFS(InterPlanetary File System)は、分散型のファイル保存・共有プロトコルです。データは中央サーバーではなく、ネットワークに参加するノード(コンピュータ)に分散して保存されます。データの保存場所ではなくその内容(コンテンツ)のハッシュ値によって識別されることが特徴です。

3. Helium Mobile (Helium 5G ヘリウムモバイル)  分散型ワイヤレスネットワーク

 (引用:Helium Mobile)

Heliumは、(分散型)無線ネットワークを構築するためのブロックチェーンベースのプロジェクトです。一般の人々や企業が無線LANの接続場所(ホットスポット)を提供し、その提供したネットワークインフラに対して報酬を得ることができます。Heliumには2つの主要なサービスがあります。

Helium IOT: スマートシティ、環境モニタリング、資産追跡、農業などの分野で利用されており、個人や企業がLoRaWANプロトコル(*2)ベースのネットワークインフラを提供することで報酬を得ることが出来ます。

(*2) IoT(Internet of Things)デバイス同士が長距離で通信するための無線通信プロトコル。低消費電力、長距離通信といった特徴があります。

Helium Mobile (Helium 5G): 個人や企業がミニ・セルタワーと呼ばれる携帯電話の基地局を展開・運用し、無線通信の範囲(ワイヤレスカバレッジ)を提供することで報酬を得ることが出来るサービスです。

 (引用:Helium Mobile)

上記スクリーンイメージは、Helium Mobileのカバレッジマップ(Helium Mobile Coverage Planner)です。登録者数が10万人突破の発表もあり(2024年7月時点)、拡大中の5GネットワークのDePINプロジェクトです。

これまで、ほとんどのモバイルネットワークは通信会社などの中央集権的なサービスプロバイダーによって運営されてきました。しかし、Heliumの5Gネットワークはこれとは異なり、ワイヤレスサービスを提供するためにリソースを提供する個人のグローバルコミュニティによって所有・運営されています。(連載第2回へ続く)

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